研究概要 |
本年度は,植物体内水分の理化学性を調べる実験の一つとして,ランにエチレン暴露させた場合,ラン植物体内の水分の状態が物理的に影響を受けるか,花弁の色が変化するかを調べた.また,花の老化過程における^1H-NMR緩和時間を調べ,エチレン暴露を細胞水との関係を明らかにした. 実験材料は,Dendrobium Phalaenopsis cvを用いた.50個の栽培ポットを2つのグループ(コントロールとエチレン処理)に分け,異なる2つのグロース・チャンバに置いた.毎日サンプルを取り,^1H-NMRスペクトロメータによって,緩和時間T_1(スピン-格子緩和時間)とT_2(スピン-スピン緩和時間)を測定した. その結果,エチレン暴露によって,緩和時間と水分量が共に減少し,それに伴って色相角の増加が認められた.エチレン処理したランの花弁における細胞水のT_1は減少し,水分の低下と対応した.花弁の液胞水が消失したものと思われた.一方,T_2値はエチレン暴露下の花弁でも維持された.このことから,T_1は液胞の水に対して,T_2は細胞質の水に対してモニターが可能であることが分かった.これらの実験から,エチレン感受性の植物の場合,NMRの緩和時間を測定することによって,花弁の老化過程に関する基礎的な情報が評価できることが示された.
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