今年度行った研究は、和歌山県日高郡南部町千里の浜と愛知県渥美郡渥美町恋路が浜に産卵のため上陸したアカウミガメから採取した卵を用い、1)自作した孵卵器で卵の頂点の位置を変えて孵卵した場合の孵化率と胚の発生状況、2)発生過程で生じる卵殻の白濁について走査型電子顕微鏡による組織学的研究および3)胚の固着に伴って性状が変化する卵白についてSDS-PAGEを用いた卵白蛋白質の変化、4)胚の固着が起こる卵殻頂点部を取り除いて培養した場合の発生の進行状況、5)飼育下での雌雄アカウミガメの血中性ステロイドホルモン濃度の動態と透過性・非透過性カルシウム濃度の動態などについて検討した。 1)個体別に産卵された受精卵を分けて180°転卵した結果、個体により産卵時の発生ステージが異なる可能性があり、さらに産卵後みられ始める卵殻の白濁や胚の固着よりも前に卵内容物全体が固まり動かなくなる固定現象が認められた。また、保護のためには少なくとも産卵後16時間以前に別の場所に移植する必要性が確認できた。 2)卵殻の白濁部とそれ以外の部分を詳細に検討した結果、組織学的な違いは認められなかったが、脱水により白濁していない卵殻域が消失したことから、水分の透過性の違いが卵殻の両域を形成するものと思われた。 3)胚の固着部分の卵白蛋白質における顕著な変化は認められなかったが、発生の進行に伴って分子量の異なる蛋白質の出現と消失が認められた。 4)卵殻頂点部を取り除いて卵黄とともに胚を培養したところ、8.7%の孵化率で孵化に成功した。しかし、代替卵殻としてニワトリ卵殻を用いた場合には孵卵36日目まで発生したが死滅した。 5)昨年度の結果とは異なり、血中プロジェステロンやエストロジェン濃度には顕著な変動は認められず産卵も起こらなかったが、エストロジェンの作用に伴わない非透過性カルシウム濃度の上昇が産卵季節前に確認できた。
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