研究概要 |
キチン繊維とタンパク質のマトリックスからなる昆虫のクチクラは、強くて堅いが脆くなく、適度にしなやかさが付与された理想的な繊維複合材料であるといわれている。ところが、人工の繊維複合材料の場合は、極度に強いが脆いといった欠点を有する。本研究の目的はキチンとタンパク質かちなる天然の繊維複合材料の構造を明らかにし、その構造を模倣した材料を調製することである。 そこで、キチン微結晶が一軸配向したスルメイカ(Todarodes pacificus)の腱を用い、その構造を解析した。まず、脱タンパク処理前後のFT-IRスペクトル解析ならびに広角X線回折から、この腱がβキチンとタンパク質の複合体であることを確かめた。次に、未処理試料の放射光小角X線回折を行った。そして、赤道にd=4.09nmのブロードな回折を観察した。これは、タンパクマトリックス中におけるキチン微結晶の配列に由来するものとして現在解析をしている。また子午線にはd=16.0nm,8.33nm,5.11nmの3つの回折が観察された。これは、イカの腱のタンパク質が、キチンの繊維周期(1.0nm)のおよそ16倍の周期を有することを示している。また、縦断面の透過型電子顕微鏡観察からもタンパクのこの周期に相当するおよそ16nm周期の縞状構造が観察された。 現在、イカの腱に加え、ヒメバチ(Magarhyssa praecellens)の産卵管についてもタンパク質のアミノ酸分析、一次構造解析を進めている。また、繊維複合材料の調製のためその両末端にキチン微結晶への結合ドメインを持ったタンパク質を酵母の遺伝子組替え体を用いて合成中である。
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