研究概要 |
哺乳動物の精子形成においては,転写のみならず細胞質での転写後および翻訳段階での調節が,遺伝子発現を制御するうえできわめて重要である。申請者は,少なからずの精巣RNAが低分子DNAとハイブリッド形成していることを示唆する知見を得ている。この現象は精巣特異的であることから,翻訳抑制あるいは内在性のRNase Hによる分解を介して転写後レベルで遺伝子発現を制御することにより,精子形成で重要な役割を果たしているものと思われる。今年度は,RNA・DNAハイブリッド形成の精子形成における役割およびアンチセンス治療への応用を目的として以下の項目について検討した。 (1)RNase Hの発現様式…哺乳動物細胞には,RNase HIIとRNase HIIという少なくとも2種類のRNase Hが存在することが知られている。RNA・DNAハイブリッドが細胞内で分解されるためには,これら酵素が必要である。それぞれの発現の組織分布および精子形成過程における時期特異性について検討した結果,RNase HIは普遍的かつほぼ同レベルで発現しているのに対し,RNase HIIの発現量は精巣において他の組織の約20倍であり,生後14日齢以降の精巣すなわちパキテン期精母細胞以降の精子形成細胞で過剰発現していた。また,それぞれの細胞内局在を明らかにするために特異的抗体を作製した。 (2)RNase HIIノックアウトマウスの作製…RNase HIIがパキテン期精母細胞以降で著量に発現していることから,本酵素が精巣特異的なRNA・DNAハイブリッドの分解に関与し,転写後レベルでの遺伝子発現制御に関与していることが考えられた。そこで,精子形成過程におけるその機能を明らかにするために,ノックアウトマウスの作製を行っている、活性残基を含む領域をネオマイシン耐性遺伝子で置換したようなターゲティングベクターを用いて,変異ES細胞を得た。現在,キメラマウスの交配を行っている。 (3)ハイブリッド形成部位の同定…RNase Hにより消化されたRNAの3'末端にRNAリンカーを連結し,分解を受けることが判明しているアクチン等複数のmRNAについて,reverse ligation-mediated PCRにより切断産物を増幅した。それらの末端塩基配列を決定した結果,ハイブリッド形成部位にはある程度のコンセンサス配列が存在することが示唆された。
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