研究概要 |
発癌の仕組み、イニシエーションの分子機構、は癌の生化学研究50年来の謎であるが、申請者らの開発した前癌マーカー酵素、グルタチオンS-トランスフェラーゼP型(GST-P, Satoh, K. et al. PNAS. USA. '85)を用いてその解明を試み、大きな成果を得た。GST-Pは前癌細胞(foci)のみでなく発癌起始細胞(initiated cell)と見なされる(GST-P強陽性の)単一細胞(以下シングルセル)が検出可能であり(87,'89)、GST-Pとシングルセルは、発癌の分子機構解明の鍵と考えられる。 実績I.GST-Pの発癌起始細胞および前癌細胞における異常発現と新しい発癌機構の提唱: 立体解析によりラット肝前癌fociにはGST-Pが正常細胞よりも150-250倍、シングルセルには180-300倍多く異常大量発現している事実を明らかにした。GST-Pの内因性発癌剤の結合蛋白としての性質その他からシングルセルにおける内因性発癌剤の大量発生が示唆され、その異常ストレスがイニシエーションの駆動力として作用する新しいEpigeneticな発癌機構を提唱した(論文2)。 実績II.ノックアウト(KO)マウスの発癌実験: Nrf2転写因子KOマウス肝のGST-P発現に雄雌共に約50%の蛋白、活性の低下を認め薬物誘導その他からNrf2の主要転写因子としての役割を明らかにした。同KOマウス(-/-,+/-)のDEN発癌感受性を調べ正常細胞と発癌起始細胞におけるGST-Pの遺伝子発現機構の異なる事実を明らかにした(論文1)。 実績III.Nrf2転写因子の作用機構: マウスGST-P遺伝子の5'上流にはARE (anti-oxidant response element)配列が存在する。Nrf2転写因子はARE(5'Capより-59)に最も強く結合したが他に2つの結合部位(-915,-937)も認められ、同因子のGST-P発現への正負の関与を明らかにした(論文3)。
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