本研究の最大の成果として前癌前駆細胞(第2潜在癌)の発見同定が挙げられる。この結果は現在投稿準備中であるが癌研究史上重要なひとつと考えられる。発癌過程はイニシエーション、プロモーション、プログレッションからなるが、イニシエーション、は極微の潜在的な遺伝子変化(Genetic change)で原理的に検出不能のものと考えられて来た。しかし、報告者は、発癌剤ジエチルニトロサミン(DEN)投与2、3日後の早期にラット肝臓に誘発する前癌マーカー酵素GST-P(グルタチオンS-トランスフェラーゼP型)陽性の一個ないし数個からなる変異細胞(シングルセルおよびミニーフォーカスと命名)は、内因性発癌剤の異常蓄積した発癌起始細胞(initiated cell、前癌前駆細胞、潜在癌)であり、遺伝子変化を伴わないepigeneticな変化で生じるという仮説を提唱した(論文 2)。次いで、GST-Pと同じく前癌マーカー酵素として用いられているGGT(γ-glutamyltranspeptidase)とGST-Pとの関連を調べた。GGT陽性の前癌細胞を検出するためにRutenburgの活性染色法を改良し検出感度を10倍以上高めた。この方法でDEN発癌(Solt-Farberプロトコル)の早期に誘発するGGT陽性前癌細胞をGST-P陽性細胞と対照して調べたところ、GGT陽性前駆細胞(第2潜在癌)が経日的に明瞭に検出された。注目すべきことにGGT/GGT陽性細胞はGST-P陽性細胞(ミニーフォーカスおよびフォーカス)に局在して発現する事実を認めた。即ち増殖能の低い第1潜在癌から増殖能の高い第2潜在癌への転換が認められた。この結果は遺伝子変化で癌が生じるとの従来の説(Genetic change)に対する強力な反証(Epigenetic change)となるものである。従って2種類の前癌前駆細胞の実体の検討によるイニシエーションの分子機構の解明が現実のものとなった。論文1、3はGST-Pの遺伝子発現における転写因子Nrf2(Nuclear-factor-E-related factor2)の重要性を調べたものである。
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