研究概要 |
核内小分子U5 RNAはtransfectionによりラット細胞をがん化させる。U5の二次構造におけるfirst stemの3'後半側塩基配列をpolyA付加しRNA polymeraseII依存的にplasmidから発現させると同様にがん化を起こす。この能力はRNA分子に内在するpoly-purine配列GGAGに基因する。この非翻訳転写物をtransforming RNA(TR)と呼ぶ。TRはribosome及びsignal recognition particleが協調して行う分泌系蛋白合成の伸長停止機能を阻害し結果としてsignal peptideを有する蛋白合成を抑制する。この初期過程から続く変化を既知癌遺伝子の活性化の観点からヒト正常TIG3細胞を用いて検討した。翻訳開始因子eIF-4Eはlimiting Proteinと考えられている。TR発現細胞においてeIF-4Eの蛋白レベルの上昇が観察された。eIF-4Eのリン酸化に変化は見られなかった。またeIF-4Eの調節蛋白である4E-BP1について検討した。量的及びリン酸化に関与するsignal transduction pathways(FRAP/mTOR and PI3K-Akt)についても有意な変化を認めなかった。加えて細胞膜Caイオン取り込みに関してTR発現による有意な影響を観察出来なかった。これらの成績からTR発現細胞におけるeIF-4E蛋白レベルの上昇はsignal transduction pathwayの変調によるものではなく分泌蛋白合成抑制によるeIF-4Eの消費が減じることに基づくと考えられた。TIG3細胞のTR単独,TR+eIF4E,およびTR+c-mycの組み合わせによる形質転換について検討中である。
|