研究概要 |
Transforming RNAによる分泌蛋白合成の抑制作用を明らかにした後、以下の検討を行なった。膜蛋白質の量的減少に伴うシグナル伝達異常の有無について調べた。翻訳開始蛋白質eIF-4Eは、細胞質内において量的に限定されていることが知られている。分泌蛋白全般の合成が抑制される状況においてこの翻訳開始因子は非分泌蛋白合成の亢進に向かう可能性が考えられる。事実、TR発現細胞においてeIF-4Eの蛋白レベルは上昇して観察された。結果的に非分泌蛋白合成は亢進していると考えるのは妥当と思われた。また、eIF-4Eは強発現においてNIH3T3細胞を悪性転換させる報告がなされ発ガン遺伝子のひとつとして考えられている。しかしながら、eIF-4Eおよびその調節蛋白である4E-BP1のリン酸化について詳細に検討したが対照細胞に比して有意な差異は観察されなかった。4E-BP1に関してwortwanninおよびrapamycin等の薬剤を使用して検討したがPI3K-Akt-FRAP/mTORの経路における異常を示唆する成績は得られなかった。さらに、細胞膜カルシウムポンプ蛋白質、PMCA、のwestern blotによる成績は明らかなレベル低下を示したが、^<45>Caの取り込みに関して対照に比べ有意な差異は観察されなかった。これらの成績からカルシウムシグナル伝達経路に有意な異常は観察されなかった。また、これらの仕事を通じて、TRによる直接的な蛋白合成抑制からくるさまざまな細胞膜イオンポンプ蛋白レベル低下に伴う変化がTR-形質転換の有意な要因となる可能性を否定した。 In vitroヒト正常細胞の形質転換に関して、TR単独、あるいは発ガン遺伝子(c-myc, H-ras, eIF-4E)との共発現において実験した。少なくともこれらの発ガン遺伝子の関与を示唆する所見は得られなかった。
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