研究概要 |
細菌がもつ逆転写酵素(RT)が抗菌剤のターゲットになるか否かを明らかにするために,今年度はまずRT活性をもつ細菌を検索し,RT活性陽性菌に対してRT阻害剤がその増殖を抑制するか否かを明らかにし,さらにその阻害メカニズムを明らかにすることを試みた。 まずRT陽性細菌を検索するために,グラム陽性球菌および桿菌,グラム陰性球菌および桿菌総数17菌種から作製した抽出液中のRT活性を測定したところ,17菌種全てにRT活性を認めた。 さらにこの17種の細菌に関して,RT阻害剤であるZDV(zidovudine),ddC(dideoxycytidine),ddI(dideoxyinosine)の抗菌活性をMICで検討したところ,ZDVにおいて12種,ddIにおいて2種の細菌に対し比較的強い増殖抑制活性を認めた。 そこで増殖抑制の見られた細菌の抽出液中のRT活性およびDNA依存性DNAポリメラーゼ(DDDP)活性に及ぼすZDV三リン酸の阻害効果を見たところ,RT活性,DDDP活性ともに濃度依存的に阻害されたが,RT活性の方がより強く阻害された。 つぎに大腸菌に対しZDVおよび数種の抗菌剤を作用させ,その形態変化を光学顕微鏡および電子顕微鏡を用いて観察したところ,ZDVを作用させた菌の形態変化は,DNA合成を阻害するnalidixic acidを作用させた菌の形態変化に類似していた。 これらのことより,多くの細菌はRTを有しており,RTを含むDNAポリメラーゼが阻害されることにより細菌の増殖が抑制されることが示唆され,RTを含むDNAポリメラーゼが新たな抗菌剤のターゲットになり得る可能性があると考えた。
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