マスメディアの提供する健康関連記事は一般の人々にとって健康に関する最大の情報源であるが、その情報伝達の在り方が検証されたことはほとんどない。本研究は、まず新聞による健康情報の報道特性を明らかにするため、厚生労働省が発表した「アクリルアミド」の情報を実例として、2002年11月1日の4社(朝日、毎日、読売、日経)2つの地域(東京と京都)の計8つの新聞記事の検討を行った。厚生労働省がホームページで発信した情報と新聞記事の見だしで用いられていた単語から内容分析のカテゴリーを決めた。ホームページと新聞記事見だしの両方でみられた単語(1群)、ホームページのみで使われた単語(2群)、新聞記事見だしのみでみられた単語(3群)に分類し、各群に含まれる単語の8つの新聞記事における出現頻度を測定した。単語の出現頻度では、全ての記事において1群に含まれる単語が多かった。測定対象とした単語の中で、「食品」「等(など)」などはどの記事でも高頻度に使用されていたが、「高温」「ホームページ」などは記事によって使用回数が異なっていた。以上より同一テーマの記事であっても、提供される情報や表現方法は新聞によって違うことが示された。今後、新聞における健康情報の報道特性の解明を進めると共に、研究者によるオリジナル情報の発信、マスメディアによる情報の加工、そして報道による一般の人々への情報提供の過程を検証していく必要がある。今後の研究に供すべく新聞記事の様式・内容を評価するチェックリストを作成した。 次にインターネット情報を評価するために、前立腺がんの検診をテーマとして、EBMによるガイドラインとの比較を試みた。各国のガイドラインは前立腺特異抗原(PSA)測定による検診を推奨していないが、国内では自治体や病院が検診項目として採用しているケースが多い。各種検索エンジンで得られたホームページ情報を評価した結果、「ベネフィットとリスクの双方が示されている」のは10%に過ぎず、68%が「ベネフィットに偏っている」と見られた。精密検査(生検による確定診断)に関する情報は、「充分・または少し提供されている」は14%のみであった。確定診断された時の選択すべき治療法等の情報については、「充分提供されている」が6%、「少し提供されている」が12.0%であった。その検診を受けることで疫学的にがん死亡リスクを減らせるかという検診の有効性については、「充分提供されている」6%、「少し提供されている」6%であった。その結果、16%が「検診を強く誘導」し、62%が「検診を誘導」していた。以上から本課題については、EBMによって現時点で得られている知見と乖離する情報がインターネット上に多く存在していることが示された。インターネットの一般の人々の保健・医療行動に与える影響は増大してきており、今後、他の課題についても同様の内容評価の必要性が高まっていくことが予想される。
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