研究概要 |
β1インテグリンはファイブロネクチン、コラーゲンなどの細胞外基質やVCAM分子の受容体として、細胞接着のみならず細胞の活性化、増殖、遊走、アポトーシス等の生物学的なプロセスに重要な役割を果たしている。我々がT細胞においてクローニングしたCas-L(Crk-associatedsubstrate lymphocyte type)は、インテグリンの架橋により強くチロシンリン酸化をうける細胞内ドッキング蛋白質である。Cas-Lは、ATL由来及びHTLV-I感染T細胞株において発現が著明に上昇しているため、ATL患者での発現、及びHTLV-I taxとの相互作用について検討した。taxは、HTLV-Iウイルスの転写に必須であり、NF-κB等を介し、宿主遺伝子を活性化し、HTLV-I感染細胞の腫瘍化の鍵を握る分子である。tax遺伝子を誘導的に発現するJPX-9細胞を用いCas-L遺伝子発現へのtaxの作用を検討した。taxの誘導によりCas-L蛋白とmRNAの発現が誘導され、taxとCas-Lの誘導されたJPX-9は、細胞外基質上での細胞遊走能が亢進した。また、Jurkat細胞においてtaxを誘導すると、Cas-Lの著増とリン酸化亢進と共に、fyn, lckの自己リン酸化の増強、細胞遊走の亢進も生じた。またATL患者細胞でのCas-Lの強発現、持続的リン酸化も認められた。さらにTwo-Hybrid法を用いてCas-L結合分子のクローニングを行った結果、tax, Smad7, Smad3等が同定され、蛋白レベルでもCas-Lとの結合が確認された。さらに、Cas-Lの発現により、taxによるNF-κB活性化を選択的に抑制することが判明した。 このようにCas-Lは、腫瘍細胞の浸潤・転移に関わる重要な分子で、かつtaxとの蛋白質間相互作用を有することが示唆された。
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