研究概要 |
我々は、日本産野生マウスから作出した近交系マウスKORの中にヒトのアトピー性皮膚炎によく似た症状を自然発症する個体を発見し、本変異マウスをNAD(Nippon Atopic Dermatitis)マウスと命名した。新規疾患モデル動物の樹立を目的としてNADマウスの繁殖・維持方法を確立すると同時に、臨床像および病理像の解析および原因遺伝子の染色体マッピングを行った。NADマウスの初期病変は生後4-5週齢時に眼瞼の浮腫として認められ、その後浮腫は口唇と顔面全体におよび、同時に前肢による掻痒行動によって増悪する重度の湿疹と脱毛が顔面全体と首、前肢屈曲側に広がった。病理所見は皮膚の剥離、真皮の肥厚、マスト細胞、リンパ球等の浸潤を認め、高IgE血症を呈し、ヒトのアトピー性皮膚炎に酷似した。NADマウスのアトピー性皮膚炎原因遺伝子nadの染色体マッピングをBALB/cマウスとの交配F2個体約1,000匹を作出し、マイクロサテライトマーカーを用いた連鎖解析により原因遺伝子の染色体マッピングを行った。その結果、原因遺伝子nadはマウス第10染色体上のD10mit53およびD10mit193の極近傍にあることを明らかにし、既存のアトピー性皮膚炎マウスNC/NgaマウスおよびNOAマウスとは原因遺伝子が異なる新規アトピー性皮膚炎マウスであることが判った。 なおNADマウスは皮膚症状が重度で寿命が極めて短かい点がモデルとして不利であることから、原因遺伝子nadをC57BL/6およびBALB/cマウスに導入したコンジェニックマウスの作出を開始し、現在までに5回戻し交配したコンジェニックマウス(M5)が得られている。いずれも生存期間が延長し、アトピー性皮膚炎はNADマウスに比較してC57BL/6.NADマウスは軽度、BALB/c.NADマウスは中程度になり、オーダーメイド医療に対応可能な複数系統の疾患モデル樹立を目指し、完全コンジェニックマウス(M12)を完成させる。
|