平成15年度は以下の検討をおこなった。 ・クロリン誘導体の力学的感受性の効果 細胞内に取り込まれたATX-S10(II)の温熱刺激に殺細胞効果に関しては、投与6時間後において42℃の温熱刺激30分を与えたところ、細胞死が観察されたがMTTアッセイやDNA断片化の測定による客観的な殺細胞効果の判定に関しては有意な差異を認めなかった。これは温熱刺激そのものが培養条件に影響を与え、細胞死を誘発させることに起因するものと思われた。 ・ヌードマウス移植膵癌細胞に対するクロリン誘導体の移行様相と抗腫瘍効果 すでに確立済みの胆管癌細胞(HuCCT 1)移植ヌードマウスで再検討した。ATX-S10 Na(II)15mg/kgを静脈内投与し、組織内投与を測定したところ、投与2〜3時間において有効な腫瘍内・正常組織内濃度差が得られた。本実験系を用いて恒温槽で加温した後の腫瘍に対する殺細胞効果を検討したが、腫瘍内温度測定により腫瘍内出血を誘発するために、腫瘍壊死部の効果判定において治療による殺細胞効果と虚血出血壊死を区別することが困難であった。このため42℃、30分・60分で検討した範囲では効果は明かではなかった。また、恒温槽以外の温熱刺激として電磁波等を用いた実験系も検討したが均一な温熱刺激が可能な実験系を確立できなかった。 また、温熱感受性のある腫瘍集積物質を用いた検討に関しては、適切な温熱刺激法や判定法が確立できず、結果が得られなかった。以上より本研究の目的である膵臓癌細胞の力学的感受性は存在が示唆されたものの、その至適治療法や効果判定に関しては結果が得られなかった。
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