研究概要 |
本研究は、少量マクロライド抗菌薬の長期投与という、これまで予防法のなかった寝たきり患者を含めた高齢者肺炎罹患ハイリスク群全体に対する予防法を確立することを目的とする。 まず、マクロライド抗菌薬に、慢性閉塞性肺疾患患者の感冒罹患による急性増悪を予防する効果があることを示した(Chest 120:730-3,2001)。また、高齢者肺炎の発症機序を考えると、脳血管障害に基づく不顕性誤嚥が最も重要と考えられる。誤嚥するものとしては、口腔-咽頭分泌物に加え胃液が重要である。寝たきり患者では、仰臥位をとる場合が多いため胃-食道逆流により胃液を誤嚥する場合が多い。高齢者の胃液中には、グラム陰性桿菌など病原性の高い細菌種が多く存在し、胃液の誤嚥と共に肺内にはいり、肺炎が発症する。胃液は弱酸性の場合細菌の繁殖が起こり易いが、私達は、胃液がpH4位の低い酸度でも、生体で産生され強力な抗菌作用のあるβ-ディフェンシンの抗菌活性を低下することを見出した(Am J Respir Cell Mol Biol 2002)。従って、胃液の誤嚥を生じる高齢者、殊に寝たきり患者の気道ではβ-ディフェンシンの機能低下が生じ、抗菌力が低下するために肺炎発症が助長される可能性が高い。そこで、人気管培養上皮細胞を用いた実験で、マクロライド抗菌薬はβ-ディフェンシンmRNAの発現を高めることが示された。従って、マクロライド抗菌薬は機能低下したβ-ディフェンシンを回復し、細菌に対する抵抗力を高めるものと考えられる。加えて、私達はマクロライド抗菌薬の一種であるバフィロマイシンが、代表的な感冒原因ウイルスであるライノウイルス感染抑制作用があることを示した(Am J Physiol 280:L1115-27,2001)。感冒が続発する下気道の細菌感染を助長することを考え合わすと、マクロライド抗菌薬にみられるこれら一連の作用は高齢者肺炎予防に適したものと思われる。
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