本研究ではアルギニンポリマー(AP)を用いて転写因子の一部のオリゴペプチドを細胞核内に導入することにより転写因子の機能を阻害し、血管病変形成の分子病態を解析すると共に、動脈硬化などの治療への応用の可能性を検討することを目的としている。 本年度は基礎的な検討を行った。9個のアルギニン残基にActivating Protein-1 (AP-1)のロイシンジッパー領域を含む20アミノ酸の配列を合成した。同じアルギニンにアミノ酸組成が同じで配列のみを無作為に変更したオリゴペプチドをスクランブルとして対象に用いた。N端をFITCでラベルし、細胞内への導入を蛍光顕微鏡で確認した。培養平滑筋細胞の培地に100nMの合成ペプチドを添加すると約15分後より取込みが認められ、60分後には多くが核内に局在することがわかった。合成ペプチドを培養平滑筋細胞に添加して30分間培養した後、腫瘍壊死因子(TNFα:10ng/ml)を加えてさらに60分間インキュベートした。その後核蛋白を調整しゲルシフトアッセイを行った。その結果TNFαはAP-1への結合蛋白を誘導し、その結合はAP-1のオリゴペプチドにより濃度依存性(0.1〜10μM)に抑制された。スクランブルのオリゴペプチドではこのような抑制はみられなかった。このアルギニンポリマーに結合したAP-1オリゴペプチドは転写因子の機能阻害に有用なツールとなることが示された。今後転写活性を抑制しうるか、他の転写因子への影響があるかどうかなどの検討を行う予定である。
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