平成14年度、飛行型質量分析計(MALDI TOF/MS)をリピドーシス診断への応用する試みをいくつか行い、以下のような成果を得た. 1)MALDI-TOF/MSによる組織中リン脂質の分析:ニーマンピック病A型、B型、c型、ゴーシェ病、GM1ガングリオシドーシス、ファーバー病、ファブリー病の7種類の疾患の肝臓、脾臓または脳の剖検組織をもちいて、組織中のリン脂質の分析を行なった.組織をFolch法で処理した後MALDI-TOFMS分析を行ない、各疾患に特異的なリン脂質のピークの上昇を検出できることを確認した. 2)MALDI-TOF/MSによる組織中リン脂質の半定量:内部標準(リゾスフィンゴミエリン)を加えてリン脂質をDE-MALDI-TOFMS分析しリン脂質の半定量を試みた.同時に薄層クロマトグラフィー(TLC)でも分析して比較した.その結果、MALDI-TOF/MS分析による半定量とTLCのデータは相関することを確認した.すなわちMALDI-TOF/MSによって組織中の脂質を半定量して評価できると思われる. 3)ゴーシェ病患者の胸水中脂質の分析:ゴーシェ病の胸水から脂質を抽出してMALDI-TOFMS分析を行なったところ、本症に特徴的なヘキソシルセラミドの上昇が観察された.このことは組織以外でも体液中脂質の分析によってより簡便に利用できる可能性が示唆された.今後、血液、体液を用いた分析による診断法を確立したい. 4)この他の試料野分析: MALDI-TOF/MSによって、ニーマンピック病の硝子体、ファブリー病の僧帽弁の脂質分析によっても特異的ピークが検出された. 以上の結果から、MALDI-TOF/MSのリピドーシス診断への応用の可能性は十分に高いことが確認された.今後実用化に向けた研究に発展させたい.
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