研究概要 |
平成14年度は、各種腸管感染ウィルスに対する抗体ミルクの作製および精製を中心に研究を進めた。小児において特に流行の認められるCoxsackie virus A9,A16,B3,B5およびEcho virus7,11 18の各種エンテロウィルスを雌牛に免疫し、抗体ミルクを作製した。この抗体ミルク中には高力価のウィルス中和活性を持つ免疫グロブリン(IgG)が認められた。免疫した7種のエンテロウィルスの中でマウスに感染させると心筋炎・心房心筋炎を発症させることがよく知られているCVB3を用いて、腸管粘膜免疫誘導における抗体ミルクの作用機序およびi-IELの機能について検討した。予め抗体ミルクを経口投与したC3H/HeN幼若マウスにCVB3を経口感染させ、ウィルス感染後経時的に腸管、腸管膜リンパ節、脾臓および心臓を初めとする各臓器中におけるウィルスをin situ hybridizationまたは免疫染色等の病理組織学的手法およびRT-PCR等の分子生物学的手法を用いて検出した。陰性対照ミルクを投与したマウスにおいては、CVB3感染後経時的にウィルスの感染像が認められたのに対し、抗体ミルクを投与したマウスにおいては標的臓器におけるウィルス感染像ならびにRNAレベルでのウィルスは検出されなかった。これらの現象が抗体ミルクの中和作用によるものか否かを検討したところ、抗体ミルク投与マウスにおいてCD4陽性T細胞の増加とさらにCD25分子の発現増強が観察された。抗体ミルクをパパインで処理した場合にも同様の傾向が観察され、FCRを介した非特異的な免疫応答よりはむしろ抗体ミルク成分中に免疫賦活因子が存在する可能性が推測された。パイロットスタディでは、pH7.4付近に活性化分子が存在することが判明し、抗体ミルクに含まれる中和抗体と活性化物質の相乗作用により、腸管免疫機構の機能亢進が行われているものと推察された。
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