研究概要 |
遺伝子治療の利点は,悪性腫瘍等の増殖の盛んな細胞だけでなく,神経細胞などの非分裂細胞に対しても応用することが可能であり,多くの疾患に無限に近い治療方法を提供する可能性を秘めていることである。しかし,実際にはウイルスベクターの投与後の生体内及び臓器や腫瘍内での拡散や分布状況と,その治療効果を直接的に判定する方法は確立しておらず,臨床応用への最大の関門となっている。我々は、ウイルスベクターの生体内動態や,臓器内・腫瘍内での拡散状況を,MRIの優れた分解能とMRSの機能評価をもって画像化するための撮像法の開発と、腫瘍・導入遺伝子・放射線併用の有無によるウイルスベクターの腫瘍内での動態の違いや、導入効率の違いを検討している。 p53遺伝子に異なる種類の変異を持つヒト前立腺癌細胞をマウス皮下に移植し、ある程度の大きさに増殖した段階でアデノウイルスベクターp53遺伝子(Ad5CMV-p53),及びアデノウイルスベクターCD遺伝子(Ad5CMV-CD)の導入を行う。遺伝子導入後のこれらの腫瘍におけるウイルスベクターの動態を観察するために、Diffusion MRIの最適シークエンスの開発と,プロトンやフッ素を用いたMRSの定量解析法を開発している。腫瘍を移植したマウスにおいて撮像法の最適化を行い、MRIおよびMRSにて得られた結果と、各腫瘍・各導入遺伝子における病理組織像との比較検討を行っている。また、我々はヒト前立腺癌細胞株を用いたin vitroの実験結果において放射線照射の併用を行うことによりアデノウィルスベクターの導入効率が著しく増加し、p53遺伝子導入効率が約3倍以上に向上することを示したが、この結果をもとに、放射線照射の有無によるMRI・MRS上の差異も検討しており、遺伝子治療・放射線治療併用療法の最適な照射線量と照射時期の探求を行っている。
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