研究概要 |
本研究の自的は、選択的注意による情報処理の意識的な制御を、より具体的な脳神経活動として実証することである。我々は、このモデルとして、体部位情報に対する受容野の分化が顕著である一次体性感覚野の活動に焦点をあて、これが感覚情報の最初のふるい分けを行う認知機構の入口としての機能を有することを証明する。 我々は先行研究で(NeuroReport 12(4).2001:3133-3136)、手指の受容野における指位置の脳内表現が注意の影響を受けることを報告した。本年度の主題「注意による指位置の脳内表現と受容野の活動強度との関連」では、この脳神経機構をさらに詳細に検証した。本結果は論文NeuroReport 13(17),2002:2335-2339に詳述したが、以下、概略を記す。 指情報の意識的制御として、示指と中指をランダムに刺激し、その一方の指を判別する課題を課した。また、その対象条件として、刺激の無視を行った。これらの課題を2種類の刺激強度下(低強度=感覚閾値1.25倍、高強度=閾値2.5倍)で行い、受容野を賦活させる2つの要因、即ち、注意による意識的な重み付け要因と刺激物理量要因との関連を検討した。脳活動の指標として脳磁界計測を行い、その活動源を推定した。低強度刺激では、指への注意で特異的に、受容野の反応強化と脳内指表現の明確化が惹起され、これは、高強度刺激に対する受容野の反応と同等のものであった。この背景にある脳神経活動は、刺激強度の擬似的処理(emulation)としての受容野神経細胞群の発火頻度の増加と、これに伴う反応神経細胞の数の増加、即ち、一過性の受容野の拡張であると考えられた。注意による情報処理の意識的な制御は、短期の可塑的な受容野の変化がその基盤にあると結論した。
|