研究概要 |
本年度の研究主題は「注意による感覚情報の促進と抑制の効果」である。注意には、目的情報の優先処理と同時に、非目的情報(雑音入力)の抑制効果があることを検証した。このためのモデルとして、手指に対する受容野の分化が顕著である一次体性感覚野に焦点をあて、注意による脳反応の変化を脳磁界計測によって観測し、脳内信号源を推定した。本結果は、論文(生体磁気学会誌16,2003:132-133)に記したが、以下、概略を記す。 示指と中指を同一強度で同時に刺激し、その一方の指だけに注意を向ける課題を課した。この時、注意指からの刺激入力は目的情報となり、他の指からの同時入力は課題無関連の雑音となる。注意課題では、両指同時刺激であるにも関わらず、脳の活動源が注意指の受容野に限定して同定された。これに対して、両指を無視する課題(対象条件)では、脳の活動源が両指受容野の中間点に位置した。つまり、対象条件では両指各々の受容野が同時刺激によって等しく反応するが、注意課題では注意指の受容野が選択的に賦活される。また、各受容野の活動の総和を反映する一次体性感覚野の反応強度には、注意課題と対象条件とで差が見られなかった。この結果は、指への注意が、その指の受容野を特異的に賦活すると同時に、非注意指の受容野に抑制的に影響することを表す。 この隣接する受容野間の相互作用について、頬と栂指(空間的に離れた体部位であるが、その脳内受答野は隣接する)に注目した実験を加えた。頬への干渉刺激が栂指の受容野を抑制することが見出され、水平線維を介した受容野間の相互干渉が考えられた(Clin Neurophysiol 114,2003)。 注意による情報処理の意識的な制御は、目的情報に対する反応の強化とともに周辺抑制を惹起し、受容野間の活動のコントラストを高めることであり、これを脳活動の実体として実証した。
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