造血幹細胞は自己複製を営み、種々の成熟した血液細胞を産生するばかりでなく、多様な分化能力を持ち、心筋細胞や肝細胞に分化すると相次いで報告されている。さらに骨髄間葉系幹細胞分画から神経細胞や血管内皮細胞なども試験管内で分化誘導されるとの報告もなされている。またマウスやヒトにおいて骨髄移植をうけたレシピエントの種々の組織には骨髄由来の細胞が分化し、種々の組織細胞に組み込まれていることが証明されている。これらを統合すると、骨髄の造血幹細胞や間葉系幹細胞は種々の臓器で、組織特有の環境因子の影響を受け、胎児期と同様に組織特異的細胞への分化が誘導されるということになる。そこで本研究では、骨髄幹細胞がいかなる細胞環境、環境因子により組織特異的細胞への分化が誘導されるのかについて分子機序を明らかにし、本機序を応用することにより、再生医療法の開発を行なうことを目的とする。我々は以前より造血幹細胞の生態学的適所の形成には、幹細胞の周囲に血管網の形成が誘導されることを報告してきており、幹細胞と血管内皮細胞との細胞間相互作用が種々の組織において幹細胞の分化誘導に機能するものと考えてきた。今回、骨髄や胎児肝と同様、緻密な血管網を有する脂肪組織に注目し、その間葉系幹細胞からの血管内皮細胞と脂肪細胞の分化について検討した。本研究過程で、脂肪細胞への分化に機能するリガンド依存性核内転写因子であるPPARγは間葉系幹細胞および、血管内皮細胞、脂肪細胞に発現しており、そのPPARγのリガンド、PGJ2の刺激により骨髄由来間葉系幹細胞から内皮細胞と脂肪細胞の両者が効率よく分化することが明らかとなった。間葉系幹細胞から脂肪分化の分岐点に血管内皮細胞の分化の経路が存在することは興味深く、今後本現象につきいかなる分子機序が存在するのかを解析するとともに、間葉系幹細胞を用いた血管再生治療への応用につき検討する。
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