[研究の目的と背景]大動脈瘤は、破裂すると予後不良な臨床上重要な疾患である。その病態を解明し、より理想的な治療法を開発することが必要である。本研究は、大動脈瘤壁における刺激応答機序を分子生物学的に解明し、大動脈瘤退縮療法の開発をめざすものである。我々は、ヒト大動脈瘤壁において細胞内シグナル伝達経路の一つであるc-Jun N-terminal kinase(JNK)が顕著に活性化していることを見い出した(平成12.13年度奨励研究(A)12770651)。さらに平成14年度に、大動脈瘤壁の構成細胞である血管平滑筋細胞(VSMC)と炎症細胞(マクロファージ)においてJNKを特異的に抑制することによってMatrix metalloproteinase(MMP)-9の分泌が顕著に抑制されることを示した。 [平成15年度の結果]培養VSMCにおいてJNKを特異的に抑制すると、MMP-9の活性化因子(MMP-2、IL-1α、iNOS、リポカリン2)の発現が蛋白レベルで抑制された。一方VSMCにおいてJNKを特異的に活性化すると、MMP抑制因子(TIMP-3)とIII型コラーゲンおよびコラーゲン生合成酵素群(プロリン水酸化酵素、リジン水酸化酵素、リジン酸化酵素)がmRNAレベルで抑制された。さらに培養ヒト大動脈瘤壁においてJNKを抑制すると、MMP-9活性が著明に抑制され、TIMP-3の発現が回復した。さらに瘤壁のコラーゲン分解は著明に抑制された。 [平成15年度のまとめ]JNKは、ヒト大車脈溜壁において細胞外マトリックス代謝のバランスを分解の方向に協調的に制御する主要な因子であることが明らかになった。JNKを分子標的とした大動脈瘤治療の可能性が示された。
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