研究概要 |
大腸Stem cellsのマーカー分子を同定するため、細胞外基質に対する受容体であるインテグリン分子に着目し、以下のような研究戦略に基づき実験をおこなった。 1.ヒト正常大腸組織(crypts)におけるインテグリン分子の発現をその局在に注目し検討した。十分なインフォームド・コンセントを患者およびその家族より得た上で、大腸癌手術時に得られる大腸摘出材料を用いて正常大腸組織凍結切片を作成した。12種類のα及びβインテグリン抗体による免疫蛍光組織染色を施行し、cryptsにおけるインテグリンの発現分布を検討した結果、β1インテグリンがStem cellsが存在するといわれているcrypt底部に強発現していることを見出した。 2.Flow cytometryにより、正常大腸上皮細胞(crypt cells)におけるインテグリン発現を解析した。上記と同様の方法にて得られた正常大腸組織粘膜をEDTA/DTT及びpancreatinを用いてsingle cellsの状態に分離後(Whitehead et al.,Gastroenterology 117(4):858-865,1999)、インテグリン抗体を用いて蛍光免疫細胞染色をおこない、flow cytometryによりインテグリンの発現様式を解析した。Stem cellの存在するcryptsの底部付近にのみ強発現するβ1インテグリンにおける解析では、2峰性のピーク(インテグリン強発現群と低発現群)が認められ、強発現群の細胞がStem cellsが存在するといわれているcrypt底部から分離された細胞集団である可能性が推測された。 3.上記1,2で確認したStem cellsに特異的なβ1インテグリン発現に基づいて正常大腸組織粘膜からsingle crypt cellsを分離後、蛍光免疫細胞染色し、β1インテグリン強発現細胞のみをsortingした。この細胞集団を用いてsoft agarによるcolony assayによりコロニー形成能を観察しclonogenic potentialを評価した。β1インテグリン発現に基づいてsortingされた細胞群におけるコロニー形成能は、sortingされていない細胞群(control)に比し、有意に高かった。 以上より、β1インテグリンは大腸Stem cellsのマーカー分子となり得る可能性が示唆された。
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