末梢神経が再生することは近年の研究で明らかにされ、人工神経の研究も緒に付いた。本研究は横隔神経を再生させ、組織学的・電気生理学的な再生のみならず横隔膜運動ひいては呼吸機能という生体機能の回復を目的とするものである。我々はこれまでコラーゲンコーティングしたPGA織布管の中にコラーゲンスポンジあるいはコラーゲン繊維を留置しこれにラミニンコーティングあるいはNGF浸漬徐放化を施した人工神経を開発した。坐骨神経を再建し組織学的あるいは電気生理学的な神経再生に成功しその歩行機能も回復したことを報告している。これらの研究で以下の問題点が明らかになった。神経軸索の再生の足場としての材料の最適化、軸索再生の速度の促進、除神経の間に起こる当該神経支配筋肉の萎縮の軽減である。そこでコラーゲンスポンジの架橋法および徐放成長因子の組み合わせと神経軸索再生の程度を比較した。グルタルアルデヒド架橋コラーゲンスポンジ上でPC12細胞を培養し軸索成長を顕微鏡的に観察した。ついでこの化学架橋コラーゲンスポンジのポアサイズを変更し同様の観察を行った。PC12細胞は化学架橋スポンジ状では軸索突起を成長させずポアの中で球状の細胞として観察された。乾熱架橋コラーゲンスポンジ上で同様の実験を行った。播種したPC12細胞の約10%程度が軸索突起を伸展したが、コラーゲン基質が予定の観察期間内に溶解してしまい、不充分な観察結果となった。この結果より本研究のコラーゲン基質はグルタルアルデヒド架橋では架橋の程度が強力すぎるかごく微量の残存グルタルアルデヒドのため軸索伸展ができなかった可能性を示唆した。ついで乾熱架橋コラーゲンスポンジ上でマウス後根神経節細胞を培養した。コラーゲンコーティングガラス板上での軸索伸展には及ばないものの約10%の細胞で軸索伸展を認めた。全ての実験でNGFが軸索伸展と細胞形態維持には必要であった。
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