我々は悪性脳腫瘍に対する独自の局所加温法と熱感受性リポソームを用いた温熱化学療法を展開してきた。我々の加温法では、腫瘍中心部を温熱による抗腫瘍効果のある43℃以上に加温を行った場合、腫瘍浸潤領域は40℃以上の領域に包括されることが分かっている。これを利用して現在では相転位温度を40℃に設定したリポソームを新たに開発し、腫瘍中心部だけでなく、腫瘍浸潤領域をも薬剤の標的としたターゲッティング温熱化学療法に取り組んでいる。これまでに共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)を用いたラット脳腫瘍モデルの薬剤分布を組織レベル、細胞レベルで検討し、腫瘍にのみ薬剤を高濃度に集積できることを証明した。 本年度は本療法を用いた腫瘍成長遅延実験を行い他の治療法と比較した。方法はラット脳腫瘍モデルに局所加温を行い、アドリアマイシン封入リポソーム(liposomal ADR)を尾静脈から投与した。以下の6グループ(n=10)に分類し、死亡までの日数をWilcoxon's testで分析した。A:治療なし、B:加温のみ、C : free ADR、D : liposomal ADR、E : free ADR & 加温、F : liposomalADR&加温。結果は各グループの平均生存日数がA:22.7、B:24.7、C:26.7、D:25.2、E:32.5、F:35.1日となった。グループFで他のグループに比べ有為に高い生存率を示した(Wilcoxon's test)。また、最長生存日数(55日)もグループFにおいて達成された。この結果から熱感受性リポソームと局所加温の併用が脳腫瘍に対して高い抗腫瘍効果を発揮できることを証明できた。 また、現在、薬剤の投与方法、リポソームに封入する内容物についても検討しており、次年度には臨床応用をすすめて行く考えである。
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