我々は悪性脳腫瘍に対する独自の局所RF組織内加温と熱感受性リポソームを用いた温熱化学療法を実験的に展開してきた。この組織内加温法では、腫瘍中心に挿入した電極から遠心性に温度のグラデーションを得ることができ、腫瘍中心を43℃に加温し、周辺部を40℃以上にすることで腫瘍効果を発揮する。これまで、抗癌剤であるアドリアマイシン(ADM)を相転移温度40℃としたリポソームを作成し、C6グリオーマ移植ラットを実験モデルとして用い、腫瘍へのアドリアマイシンの集積を共焦点レーザー顕微鏡で薬剤分布を確認し、生存実験も行ってきた。その結果、熱感受性リポソームと局所加温の併用が脳腫瘍に対して高い抗腫瘍効果が発揮できることが証明できた。 本年度では、効果的な薬剤投与のために局所加温に置ける脳血流変化と温度分布の解析、リポソームの組成変更または封入薬剤変更による改良点の模索、リポソームの細胞内動態もしくは薬物濃度変化を知るべく、同実験モデルを用い検討を進めた。 1.ラットグリオーマモデルの組織内加温時の血流変化については、腫瘍の血流と正常脳での血流をレーザードップラー法にて検討した。腫瘍内では血流は加温とともに減少し、加温のみで抗腫瘍効果が得られ、周辺脳組織では43℃以上の加温では血流は一過性に上昇した後に減少し、それ以下の温度では、血流が加温とともに上昇することが確かめられた。このことは、周辺脳組織では40℃くらいの加温で薬剤をdeliveryするのに血流増加作用から有利である知見と思われた。 2.封入する薬剤についてはWST-1 assayにてグリオーマとの感受性を調べ、やはりアドリアマイシンが良い選択であることが確認された。 3.温度分布解析は、コンピュータシミュレーションによる二次元有限解析法の研究が組織内加温にまで未だ応用できず、リエントラント型加温法でのシミュレーションにとどまり、今後の課題となった。 4.薬剤濃度の検討では、加温温度37℃、38-40℃群に比して、40-42℃、43℃加温群では有為にアドリアマイシン濃度が上昇し、20μl/ml以上となった。 以上の検討から、熱感受性リポソームと局所加温による温熱化学療法が有効な抗腫瘍効果を有することが確かめられ、臨床応用にも進めていけるものと期待された。
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