本研究においては、運動・圧負荷による骨量減少予防メカニズムの第一段階である骨組織のメカニカルストレス感受機構を解明することを究極の目標とし、従来の単離細胞・培養細胞を用いた実験系ではなく、骨組織内に存在する生きた細胞を対象とした実験系を確立することを目的とし、メカニカルストレスに対する骨内細胞応答のカルシウムイメージング法による解析を試みた。本年度は、まず、基礎的方法論、すなわち標本作成法・カルシウム蛍光指示薬の選択・標本染色法・実験プロトコールについて検討を行った。各種年齢のラットを対象とした予備実験から約7日齢の若齢ラットを用いることとした。標本作成のため、麻酔下で大腿骨を摘出・縦切し、骨内面にリンゲル液を噴き付け、骨髄を除去したが、骨髄除去の際に大腿骨内面に存在する骨芽細胞が剥離してしまうことが電顕による観察で判明した。そこで、骨髄除去のためのリンゲル液噴射法を検討し、その至適条件を決定した。カルシウム蛍光指示薬としてはfluo-3/AMを選択した。共焦点正立蛍光顕微鏡を用いたカルシウムイメージング法により大腿骨内側表面に骨芽細胞と思われる細胞の集簇を観察しえた。ホルマリンやアルコールで固定処理した標本ではこのような細胞は観察されず、また灌流液へのカルシウムイオノフォア添加によりこの細胞の輝度が上昇したことから、これらは骨表面に存在する生きた細胞であることを証明した。次に、骨内側の表面を灌流するリンゲル液速度、すなわち骨へのシェアストレスを変化させ、それに対する骨組織内細胞の応答を動画像として解析した。標本にシェアストレスを加えると、一過性に蛍光輝度の上昇、即ち細胞内カルシウムの上昇を示す細胞を見出した。これは、骨組織内の生きた細胞のメカニカルストレスに対する応答を検出した初めての研究である。本研究の成果は第17回日本整形外科学会基礎学術集会において発表した。
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