腫瘍脊椎移植によるマウス下肢痛覚閾値の測定 平成14年度の研究において以下のことを確認した。1.C3H/HeJマウスの下位腰椎椎体内に線維芽腫瘍細胞を経皮的に注入することにより進行性の脊椎破壊をきたす(組織標本にて確認)。2.増殖した腫瘍は椎体外板を破壊して脊柱管内に浸潤し脊髄圧迫を起す。3.移植マウスは平均約3週間で完全下肢麻痺に陥る。 以上の結果から、平成15年度は、同モデルを用いて腫瘍移植後の下肢痛覚閾値を測定し、腫瘍脊髄圧迫による痛覚過敏成立過程を観察した。移植成功個体数37のうち、最終的に腫瘍増殖と下肢麻痺成立が確認されたものは23固体(62%)であった。これら固体におけるvon Frey線維による下肢の痛覚閾値測定の結果では、移植10日目より上昇傾向を示し、15日目(中央値)をピークとして最大400%の増加が認められた(n=10)。その後、閾値は低下し約一週間で完全麻痺のために閾値測定が不可能となった。また閾値測定群とは別の個体群(n=13)において、移植後4、8、12日目に脊髄標本を作製し、c-Fos、サブスタンスP、NK1受容体に対する間接蛍光抗体法を用いた免疫染色を行なった。その結果、腫瘍増殖が脊椎内にとどまっている4日目よりすでに脊髄後角にこれら分子の発現が認められた。この結果は、脊椎転移の病態においては腫瘍が骨膜を破壊する以前から椎体内由来の侵害受容と推測される脊髄入力が存在する可能性を示唆し、脊椎転移による痛みの発生源のひとつとして注目される。今後は、モルヒネ等の薬物によるこれら行動学的、組織学的変化の修飾を検討する予定である。
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