平成14・15年度の研究において以下のことを確認した。1.マウスの下位腰椎椎体内に培養線維芽腫瘍細胞を経皮的に注入することにより、進行性の脊椎破壊をきたす。2.増殖した腫瘍は椎体外板を破壊して脊柱管内に浸潤し脊髄圧迫を起し、平均約3週間で完全下肢麻痺に陥る。3.移植約2週間後には最大400%の下肢痛覚閾値低下をきたす。これらの結果を踏まえて、16年度は、腫瘍の坐骨神経周囲移植モデルを作成し、脊椎転移モデルとの比較において、がん浸潤による神経因疼痛成立の機序について検討を行った。坐骨神経浸潤モデルは、マウス後足背面に小切開を加え、露出した坐骨神経鞘周囲へ直接肺癌細胞(Lewis細胞、2×10^5/20ml)を注入する方法で作成した。移植後約5日目から、機械刺激(von Frey)と熱刺激(赤外線照射)に対する足底感覚閾値の低下(痛覚過敏)が始まり、約2週間後にその変化が最大となった。その後、麻痺の進行によるものと考えられる痛覚回避反応の低下が出現し、マウスは約4週間で死亡にいたることが確認された。この痛覚閾値低下と麻痺のパターンは、脊椎浸潤モデルと類似していた。しかし、脊髄後角c-Fosの発現時期は、坐骨神経浸潤モデルに比べて、脊椎浸潤モデルのほうが早期から認められた。また、両モデルにおいて末梢血リンパ球中に発現する内因性オピオイド前駆タンパクであるproopiomelanocortinのmRNA発現をRT-PCR法にて解析したととろ、坐骨神経浸潤で認められるmRNA発現の亢進が、脊椎浸潤モデルでは認められないことが確認された。これらの差異に対しては、1.宿主の遺伝学的差異、2.移植した癌種の違い、3.局所浸潤による炎症重症度の違い、4.末梢軟部組織浸潤と骨浸潤における知覚神経損傷機序の違い、などが想定される。
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