研究課題
小胞体ストレス蛋白質BiPはカルシウムイオン依存性に小胞体に貯留しているが、一部は分泌される。BiPのカルボキシ末端にはKDELアミノ酸配列があり、小胞体から分泌されるとゴルジ体で膜蛋白KDEL受容体によって再び小胞体に逆輸送される。また、異常な蛋白が集積すると単に小胞体に留まるのではなく、小胞体ストレス蛋白質BiPと共にゴルジ体へ分泌されて、KDEL受容体を活性化し、小胞体に再び逆輸送される事を明らかにした(EMBO J 20:3082,2001)。さらに、KDEL受容体による逆行性輸送が障害されると、小胞体で分解されるべき異常蛋白は分解を免れて、その蛋白の性質に応じて分泌されるかあるいは細胞質内に凝集する事、細胞は侵襲に弱くなり細胞死を起こし易い事を認めている。我々は,マウスBiPゲノム遺伝子をクローニングし、相同組み換え法によって、一方のBiP遺伝子の代わりにカルボキシ末端のKDELアミノ酸配列を欠いた変異BiPを発現する遺伝子を持つヘテロノックインES細胞を作成した。この細胞においては侵襲下には小胞体に集積した異常蛋白が変異BiPと共に小胞体から流出していた。また小胞体ストレスに対して感受性が高かった。BiPは小胞体において、異常蛋白の集積を感知するセンサーとして機能していると考えられている。PERK、IRE1などの小胞体膜キナーゼはBiPと結合しているが、異常蛋白が集積するとBiPはキナーゼから離れ、異常蛋白と結合する。キナーゼは活性化し、BiPを始めとするストレス蛋白質産生増加、他の蛋白の産生抑制、異常蛋白の分解亢進といった小胞体ストレス反応が起こる。しかし、この細胞では変異BiPが小胞体から流出し続けるため小胞体ストレス反応が遷延化し細胞死が起こり易いと考えられた。
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