研究概要 |
7-10週齢の雄性成熟ラットを用いて腰部脊髄後角細胞からin vivoホールセルパッチクランプ記録を行い、脊髄後索電気刺激の後角細胞の興奮性に対する影響を検索した。末梢への刺激は記録側後肢腓腹神経領域へのピンチ刺激(痛み刺激)を行った。脊髄刺激は記録電極と同分節から5-7分節頭側の脊髄後索とし、刺激部位による違い及び単発刺激と連続刺激(20Hz,10回)の違いを検討した。脊髄刺激は末梢刺激の直前(100ms)に行った。また、坐骨神経の主要3分枝(脛骨神経、総腓骨神経、腓腹神経)のうち腓腹神経のみを温存し他の2つの神経を切断して作成した慢性神経因性疼痛モデルラット(spared nerve injury model)からも同様の実験を行い、正常ラットと比較検討した。 正常ラットでは、自発性EPSC(興奮性シナプス後電位)の発生頻度に対して後索単発刺激及び連続刺激は影響しなかった。末梢ピンチ刺激、電気刺激を行うとEPSCの発生頻度の増加が誘発されるが、後索連続刺激によりEPSCの増加(増加率)は最大で約20%抑制され、抑制効果は後索刺激終了後約3秒持続した。この抑制効果は記録部位から3分節以内の刺激で観察することができたが、記録部位から離れるに従って小さくなり、5分節以上頭側に刺激点を移動させるとほとんど消失した。神経因性モデルラットにおいても、後索単発刺激及び連続刺激は自発性EPSCの発生頻度には対して影響しなかったが、痛み刺激に対する反応は連続刺激で最大で約50%抑制され、その効果は10秒以上持続した。単発刺激では抑制効果は認められなかった。 以上の結果から、脊髄刺激の後角細胞の興奮性に対する抑制効果は正常ラットよりも神経因性疼痛モデル動物でより著明であることが判明した。また、脊髄刺激鎮痛法における下行性抑制系の役割は分節性の抑制系に比べて少ないものと考えられた。
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