本研究は、新生ラット摘出脳幹脊髄標本を用いて、非脱分極性筋弛緩薬の中枢性呼吸調節機構への抑制作用を証明し、そのメカニズムを呼吸ニューロンネットワークレベルで解析したものである。深エーテル麻酔下で、幼若ラット(0-4日齢)より延髄・脊髄を一塊に摘出する。ガラス吸引電極を用いて第4頸神経根より呼吸回数を記録した。同時に、ブラインドパッチクランプ法により、呼吸ニューロン(前吸息性ニューロン、吸息性ニューロン、呼息性ニューロン)を記録した。チェンバー内で、摘出した延髄脊髄標本を酸素化人工脳脊髄液(ACSF)で30分間灌流後、3〜5分間クラーレおよびベクロニウム(40μM)を溶解させた酸素化ACSFで灌流し、再度、酸素化ACSFで洗い出しを行った。両筋弛緩薬により吸息性ニューロンの脱分極回数は、呼吸数と同期して減少した。一方、前吸息性ニューロンの脱分極回数は変化しなかった。つまり、第4頸神経のバースト回数と前吸息性ニューロンの脱分極回数には乖離が生じた。しかし、この両者の乖離時にも第4頸神経は必ず前吸息性ニューロンの脱分極相にバーストしていた。よって、筋弛緩薬による呼吸中枢抑制作用の機序のひとつとして前吸息性ニューロンから吸息性ニューロンへの興奮性伝達の遮断が考えられる。また、筋弛緩薬により前吸息性ニューロンの膜電位が過分極し、膜抵抗が増加した。一方、吸息性ニューロンの膜電位、および膜抵抗は変化しなかった。よって、筋弛緩薬による呼吸抑制作用のもうひとつの機序として、筋弛緩薬による前吸息性ニューロンへの直接抑制作用が考えられる。 本研究より、非脱分極性筋弛緩薬は濃度依存性に中枢性呼吸調節機構を抑制し、呼吸回数を減少させることが明らかになった。この筋弛緩薬による作用は、前吸息性ニューロンへの直接抑制作用と前吸息性ニューロンから吸息性ニューロンへの興奮伝達抑制作用によることが判明した。
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