本研究は、新生ラット摘出脳幹脊髄標本を用いて、非脱分極性筋弛緩薬の中枢性呼吸調節機構への抑制作用を証明し、その機序を呼吸ニューロンネットワークレベルで解析したものである。 深エーテル麻酔下で、新生ラット(0-4日齢)より延髄脊髄標本を摘出し、酸素化人工脳脊髄液で灌流した。ガラス吸引電極を用いて第4頸髄神経根より呼吸回数および呼吸出力を記録を行った。プロトコール1では、非脱分極性筋弛緩薬のクラーレおよびベクロニウム(1、10、100μM)の呼吸数、呼吸出力への作用を検討した所、両非脱分極性筋弛緩薬は、濃度依存性に呼吸数を抑制した。クラーレは濃度依存性に呼吸出力を抑制したが、ベクロニウムの呼吸出力への作用は濃度依存性ではなかった。プロトコール2では、非脱分極性筋弛緩薬のクラーレおよびベクロニウムの呼吸性ニューロン(前吸息性、吸息性、呼息性ニューロン)への作用を検討した。標本を酸素化人工脳脊髄液で灌流後、クラーレおよびベクロニウムを溶解させた酸素化人工脳脊髄液で灌流し、再度洗い出しを行った。両筋弛緩薬により吸息性ニューロンの脱分極回数は、呼吸数と同期して減少した。一方、前吸息性呼吸ニューロンの脱分極回数は変化しなかった。つまり、第4頸神経のバースト回数と前吸息性ニューロンの脱分極回数には乖離が生じた。しかし、この両者の乖離時にも第4頸神経のバーストは必ず前吸息性ニューロンの脱分極相にあった。よって、筋弛緩薬の呼吸抑制作用の機序のひとつとして前吸息性ニューロンから吸息性ニューロンへの興奮性伝達の遮断が考えられる。また、筋弛緩薬により前吸息性ニューロンの膜電位が過分極し、膜抵抗が増加した。一方、吸息性ニューロンの膜電位、膜抵抗が変化しないことより、筋弛緩薬による呼吸抑制作用のもうひとつの機序として、筋弛緩薬による前吸息性呼吸ニューロンへの直接抑制作用が考えられる。 本研究より、非脱分極性筋弛緩薬は濃度依存性に中枢性呼吸調節機構を抑制し、呼吸回数を減少させることが明らかになった。また、この筋弛緩薬の作用は、前吸息性呼吸ニューロンへの直接抑制作用と前吸息性ニューロンから吸息性ニューロンへの興奮伝達抑制作用によることが判明した。
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