研究概要 |
脳幹部からの下行性修飾が脊髄後角の痛覚関連細胞に及ぼす影響を細胞レベルで詳細に検討するため、まずin vitro脳幹脊髄標本を用いた実験系を確立した。具体的には、エーテルによる深麻酔下で幼若ラット(3〜6日齢)から脳幹・脊髄を摘出。標本を酸素化(95%O_2、5%CO_2)人工脳脊髄液(組成in mM):125NaCl,4KCl,2CaCl_2,1 MgSO_4,0.5 NaH_2PO_4,26 NaHCO_3,30glucose, pH7.4)により27℃で連続的に灌流し、維持する。本標本においては、頚髄前根より呼吸神経出力を8時間以上にわたって記録可能であり、組織生存性には問題がないことを確認した。さらに脊髄後角ニューロン群の応答性につき、膜電位光計測法(Okadaら,2001)を適用した解析を行うため、横断面にスライスした標本を膜電位感受性色素(di-4-ANEPPS)で染色し、高速高感度光計測システム(MiCAM01)を用いて、後根刺激に対する後角部各領域の膜電位応答を動画像として計測することに成功した。この方法により脊髄後角神経回路網における後角多細胞間の相互作用が解析可能となった。 そこで臨床上で頻繁に用いられている局所麻酔薬のlidocaine, bupivacaineを1,10,100μMの各濃度で人工脳脊髄液中に溶解し、脊髄後角神経回路網における作用の解析を試みた。その結果後根電気刺激による反応がシナプス前に比べてシナプス後で強く抑制されていることから、これらの局所麻酔薬が神経伝達レベルで作用していることが示唆された。 今後はこの実験系を用いることで、現在用いられている各種鎮痛薬の機序の解明及び、脳幹部をターゲットとする新しい薬理学的鎮痛法開発が可能になると予想される。
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