我々は精原細胞以降の精子分化が停止しているJSD変異マウス精巣と精原細胞がほとんどないW/Wv変異マウス精巣との遺伝子発現を比較する研究を通じて、24p3やSui1など24種類の遺伝子が精原細胞依存的にセルトリ細胞で発現することを見出した。さらに昨年・新生マウス精原細胞とセルトリ細胞との共培養系を確立し、精原細胞依存的な24p3 mRNAの発現開始をin vitroで再現することに成功した。本年度は、この共培養系の改良をさらに進め、セルトリ細胞における24p3遺伝子の発現制御ゲノム領域の同定を試みた。 まずマウス24p3遺伝子の転写開始点上流3KbのゲノムDNAをクローニングし、これをルシフェラーゼリポータープラスミドpGL3に連結した。次に、SV40 large T抗原遺伝子の導入によって、新規の新生マウスセルトリ細胞株を複数樹立した。上記のレポーターコンストラクトをこれらのセルトリ細胞株にトランスフェクトし、新生マウス精巣のc-Kit陽性精原細胞分画と24時間接触培養した後、ルシフェラーゼ活性を測定した。その結果、細胞株Bを用いたときのみに、精原細胞依存的なレポーター活性の上昇が観察された。また、この細胞株では精原細胞依存的な24p3 mRNAの発現もRT-PCRにて確認された。以上の結果により、24p3遺伝子上流3Kbゲノム領域の中に、精原細胞との接着によって活性化されるエンハンサー配列が含まれることが示された。今後は責任応答領域をさらに狭めていき、最少エレメント配列とそこに結合する転写因子を同定する予定である。この転写因子は精巣の増殖分化や機能維持を支配するマスター分子と推定され、その実体解明は実験動物であるマウスばかりでなく、ヒトの生殖器官発達の分子設計図の理解にも大きく貢献するものと期待される。
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