ミトコンドリアのPermeability Transition Pore (PTP)が卵胞の閉鎖に重要な役割を果たすことを、PTPのインヒビターであるトリフルオロペラジン(trifluoperazine)をツールにしてインビトロならびにインビボで検討した。 インビトロ:顆粒膜細胞の死にPTPが介在するか。ブタ顆粒膜細胞は分化したあとネクローシスのかたちの自然死をおこす。また、過酸化水素処理でも類似のネクローシスをおこす。ところがPTPの閉鎖化合物であるトリフルオロペラジンを前処置するとそうしたネクローシスを防止できた。したがって、この死はPTPの不可逆的な開口が介在しているわけである。PTPの不可逆的な開口に細胞質のミトコンドリアでのラジカル性成とCa^<2+>がどのような影響をあたえているのか、蛍光標識物質Fluo-3をプローブに細胞質のCa^<2+>濃度を、またミトコンドリアでのラジカル生成をdihydrorohodamine123をプローブにして共焦点レーザー顕微鏡を使ってモニターした。するとPTPの開口に先立ってCa^<2+>とラジカルが増加することがわかった。こうした増加はトリフルオロペラジンによって抑制された。したがって、酸化ストレスにより細胞質Ca^<2+>ならびにラジカル制御に異常を来し、PTPが不可逆的な開口しネクローシスが引き起こされることがあきらかとなった。 インビボ:ラットの卵胞閉鎖モデルにトリフルオロペラジン投与する。そして、培養細胞を使って得られた上記の所見が生理的な現象か検討した。22日令の幼弱ラットにゴナドトロピンのPMSを投与した。57時間後に、12時間おきに2-3回トリフルオロペラジン(合計300-500マイクログラム)を腹腔内に2-3日続けて投与したコントロールとして生食を投与した。投与終了後18時間後に開腹し、卵巣を摘出して組織標本(ヘマトキシリンエオジン染色)を作成した。パイロット実験を4回行ったが、トリフルオロペラジンで卵胞閉鎖が一部改善する傾向が認められたものの有意ではなかった。以上をまとめると顆粒膜細胞の死にPTPが介在することを明かとしたが、卵胞閉鎖への関与については今後さらなる検討が必要である。
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