輻輳運動は、3次元空間からの視覚情報を適切に取り込むために使われる重要な眼球運動である。この眼球運動が正常に発達しなければ、立体視機能が正常に発達しないため、単に眼科における斜視だけの問題でなく、小児の正常な脳機能の発達のためにも重要な問題である。本年度は、輻輳運動に適応学習が可能かどうかを、前庭垂直回転刺激と輻輳運動刺激を同期させて与える訓練を0.5-1時間繰り返し与えることにより調べた。視標追跡を訓練した若年ニホンザル(年齢3-5歳)3頭を用いた。サルの頭部を垂直回転装置に固定し、眼前に水平スクリーンを呈示した。このスクリーン上に天井からレーザースポット(直径2mm)を投影した。このレーザー視標を、サルから見て正弦波状に奥行き方向に、眼前10cmから66cmの間を前後移動させた。これにより、輻輳角度最大9.6度を得ることができる。この輻輳視標刺激を垂直回転刺激と同期させた組み合わせ課題を訓練した。主に1.0Hzで、0.5-1時間視標追跡訓練を行い、これを数日間繰り返すことによる輻輳眼球運動応答の訓練効果を、輻輳視標刺激を単独で与えたときの応答と0.3〜1.0Hzにおいて比較した。その結果、視標刺激を単独で与えたときは、輻輳視標の周波数が高くなるに従い、輻輳眼球運動の利得が減少し、位相遅れが増大した。垂直回転との干渉刺激訓練後、前庭刺激と視標刺激が同時に与えられているときの輻輳眼球運動応答の位相遅れが減少し、利得も上昇した。1頭では完全暗室下で、垂直回転のみにより輻輳眼球運動が誘発された。以上の結果から、前庭刺激を用いることにより、輻輳眼球運動には適応学習が可能であり、前庭入力は奥行き視標とそれを追跡する輻輳眼球運動のズレを減少させる方向に学習効果をもたらすことが明らかになった。
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