研究概要 |
血液網膜関門(BRB)や血液脳関門(BBB)は,血管内皮細胞とアストロサイトからなる生体機能ユニットである.これまでの研究から,BBBやBRBの血管透過性が,アストロサイトによって制御されている可能性が示唆された.そこで本研究では,1,BBBやBRBの血管透過性が,アストロサイトによって制御されているか,2,高血糖状態で形成される終末糖化産物(AGE)に対する血管内皮細胞とアストロサイトの反応性を検討した.培養ブタ脳血管内皮細胞に,7種のAGEを投与してtrans-endothelial electrical resistance (TER)を計測したが,24時間後のTERは,コントロールの値と有意差がなかった.一方,ヒト脳アストロサイトに,7種のAGEを8時間作用させ,RT-PCR法でGDNFとVEGF mRNAの発現を調べると,7種のAGEのうち,glyceroaldehydeを付加したAGE2がGDNFの発現を46%に低下させ,VEGF165の発現を140%と有意に亢進させた. AGEは,臍帯静脈や大動脈といったバリア機能の低い内皮細胞に対しては血管透過性を亢進させると報告されているが,バリア機能の高い脳毛細血管内皮細胞の透過性に対して,影響を及ぼさないことが明らかになった.しかし,グリア細胞はAGEに感受性が高く,GDNFの発現を低下させるとともに,VEGFの発現を亢進させた.以上から,BBBやBRBという血管内皮細胞とグリア細胞からなる生体機能ユニットにおけるAGEの標的細胞はグリア細胞であり,高血糖で生じたAGEがアストロサイトに作用し,血管透過性を制御するGDNFとVEGFの分泌が変化することが示唆された.
|