研究概要 |
陸上脊推動物の骨組織は、骨芽細胞による骨形成と、破骨細胞による骨吸収のカップリングにより常にリモデリングを行っており、力学的ストレスに適応した形態を形成・維持している。最近、われわれはNotchシグナルによって骨芽細胞に分化させたヒト間葉系幹細胞が、周期的パターンを形成する事を見い出した(Tezuka K.J.Bone Miner.Res.17,231-239,2002)。われわれは、骨に存在する細胞が、どの様にして外的ストレスに適応した骨微細形態を形成するかを理解するために、周期的パターンを形成する複雑系モデルのひとつである反応拡散系を用いて、仮想骨リモデリングモデル「iBone」を作製した。 二次元および三次元の仮想骨モデルにおいて、有限要素法計算によって得られた局所の応力値を、モデル内表面に展開した反応拡散微分方程式に反映させた。定常状態になった活性化、抑制因子の濃度を局所の骨形成、骨吸収活性として形態変化させたモデルを使い、繰り返し計算を行なった。均質な物質内に1つだけ穴を有する単純な二次元モデルに、均一な引っ張り張力を与えたところ、iBone計算によって穴の形状は速やかに円に収束した。また、互いに干渉しあう複数の穴が存在する場合や、不均一な張力を与えた場合も、iBoneは形態変化によって全内表面にかかるストレスを均等化した。さらに、多孔性モデルに亀裂を生じさせた場合には、亀裂が生じた梁はストレスを失い速やかに吸収されると同時に、周囲の梁の形状がストレスの不均一さを解消する様に形態変化して、全体の形状を再び安定化させる事ができた。ヒト大腿骨近位端の形状を模した二次元、三次元モデルにおいては、実際の骨梁走行や密度が応力線と関連付けられるとするWolffの法則を再現する結果が得られた。 この様にiBoneは、力学的ストレスに反応する細胞の働きを反応拡散式によって表現する事により、実際の骨組織が持つ、適応、修復、調節などの機能を実現できる可能性を示した
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