研究課題
地球型生命体は1G重力の淘汰圧の下で進化し、1Gを基本重力として記憶している。重力環境が変化した場合、1Gの記憶回路が変化し、海馬を含む辺縁系と周囲の神経回路に影響を及ぼし、情動システム発動とともに、視床下部を中心とするストレス応答が惹起されると考えられる。しかしその内容は全く解明されていない。我々は世界に先駆けて、2G高重力曝露による影響について、個体行動変化(侵害受容性応答閾値の上昇)から、細胞単位の活動(視床下部弓状核ニューロンの発火頻度の上昇)、さらに分子レベル(内因性オピオイド、βエンドルフィンの動員)に至るまで、糸統的な解析に成功した。すなわち、視床下部の弓状核や室傍核が重力センサーとして働くか、もしくは重力センサーの感受性の調節に関与することが示された。視床下部へは海馬・帯状回から強力な入力が収束しており、海馬・帯状回から視床下部への出力が重力変化の感知に関わっていることを明らかにした。この部位でのシナプス可塑性に及ぼす重力変化の影響を解明することは、重力センサーの高次中枢としての辺縁系の機能を明らかにする上で重要である。本研究では、辺縁系とくに海馬を中心に、重力環境の変化にともなうラット海馬CA1シナプスでの可塑性変化を解析するとともに、上行性入力の影響と、ニューロン特性を調べた。2G高重力曝露後には、海馬CA1での後シナプス活動電位(陰性振幅)の増大が見られ、海馬CA1領域において、重力環境の変化に応答してシナプス伝導効率の長期増額LTPが誘発されていることがわかった。そして、このLTPは、脊髄上行性ニューロンと抑制性の介在ニューロンが関与すること、さらに上行性痛覚に関連あるセロトニン作動性ニューロンの関与の可能性は低いことを実験的に明らかにし、その成果を一連の国際学会で発表した。
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