研究概要 |
当初の計画に従い、舌切除後でPAP適応の患者10名に対し、発音および嚥下時の口蓋に対する舌の接触圧(舌圧)を計測した。また舌圧計測方法の有効性を検討するため、対照群として、健常者20名の発音および嚥下時の舌圧を測定した。 パラメーターとしては舌圧の最大値(kPa)と舌接触開始〜最大舌圧発現までの時間(秒)を用いた。対照群20名の舌圧値は被験者間のバラツキが大きかった。これは口腔内容積、舌の体積の個人差によるものと考えられる。嚥下時の舌接触開始〜最大舌圧発現までの時間(秒)には被験者間で有意差が認められなかった。また発音時には、口蓋舌音において、破裂音[ti],破擦音[t∫i],摩擦音[si]の最大舌圧における一定の関係が得られた。また舌切除患者においてPAP装着前後の舌圧を計測したところ、PAP装着後に舌圧が健常者と同じ傾向を示した群については従来の方法である嚥下機能評価基準、および発語明瞭度検査、音響分析と有意に相関があった。 舌圧の計測によってPAPの有効性を評価することができることが明らかになった。しかし、舌圧の計測値は個人差があるため、各個人内での治療成果の検討はできるが、単独で各被験者間共通の指標となるのは困難である。そのため、舌圧のみを基準にして術後の発音、嚥下リハビリテーションのゴールを設定することができない。これは、舌圧の計測値には、口腔内容積、舌の可動範囲を含む運動能力が関与しているためと考えられる。そのため、各被験者間共通の指標を作るには、口腔内容積および、舌の運動能力についての検討が必要であり、それらを踏まえた上での舌圧の評価が必要である。
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