研究概要 |
歯科矯正治療に用いるブラケットと歯面の接着システムとして,治療期間中は十分高い接着強度を有し,治療終了後は,歯面を傷つけることなくブラケットを容易に脱着できるよう接着強度を低下させるシステムを考案し,その有効性を検討した. 本年度は,このようなブラケット接着システムの1つとして,機械的接着システムが応用可能かどうかを検討するため,ブラケット材に対して吸水下で化学的接着が破壊されやすい接着材を用い,ブラケット材表面の形状を変えたときの初期接着強度と水中での接着耐久性を調べ,また接着層に対する水の進入経路についても検討を加えた. 実験では,被着面形状や表面粗さを変えたブラケット材(NP:研磨処理,NS:サンドブラスト処理,MS:ステンレスメッシュ溶接後にサンドブラスト処理)と,研磨したウシエナメル質およびステンレス棒との接着試験を行い,接着試験後の破断面をSEM観察した.接着材には,4META系接着性レジンと親水性のBis-GMA系レジンを混合した試作接着剤を用いた.この接着材はブラケット材に対して吸水下で化学的接着が急速に破壊されやすい性質を有している. 接着試験の結果,歯とステンレスにおいてNPは接着1時間後に約7MPaの接着強度を示したが,水中24時間で0.8MPaまで低下し,ステンレス界面で破断した.これに対してNSおよびMSは1時間後にそれぞれ18MPa前後の接着強度を示し,その強度を4週間維持して接着材内部で破断した.ステンレス同士の接着では,接着1時間後にNPが約27MPa, NSが約33MPaの接着強度を示し,その強度を水中で2週間維持した. 今回の結果から,ブラケット被着面の形状および表面あらさによって初期接着強度および接着耐久性を調節できる可能性が示唆され,またブラケットと歯面との接着強度を低下させる水分の浸入は,周囲から接着界面を通る経路ではなく,歯質を経由する可能性が認められた.したがって,有効かつ安全なブラケット接着システム開発のための重要な1つの指針が得られた.
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