研究概要 |
【背真および目的】 味覚は情動や体調の影響を受けることが知られており、一例として疲労感や脱力感を伴う作業をさせると、苦味に対する味覚感受性が低下するという報告がある。従って苦味の代表物質であるキニーネの硫酸化合物が紫外線照射において発光する特性を応用し、(1)初めに唾液中の苦味関連塩酸キニーネ結合タンパク質を検出し、(2)次いで味覚感受性の低下が苦味物質と結合する唾液タンパクと関連するという仮説のもと、被験者を実験的に交感神経優位もしくは副交臓神経優位な状態とした上で採取した唾液から、塩酸キニーネと結合するタンパク質の解析を行った。これによってストレス状態を把握するためのパラメータとしての苦味関連唾液タンパク質の有用性を検討した。 【方法と結果】 (1)ヒト全唾液を凍結乾燥した後硫酸キニーネ溶液にて溶解し、アガロースゲル電気泳動を施行した。UV下で観察したゲルとCBB染色したゲルを比較したところ、発光部位と染色部位の一致が見られた。次に発光部位を切り出し、回収したサンプルにてSDS-PAGEし、ウエスタンプロット、プロテインシーケンスした。その結果ヒスタチン3,5,6およびプロリンリッチプロテインP-Eの2つのペプチドであることが判明し、そのタンパク質は苦味に対して高閾値者では見られないことが判った。 (2)次いで、交感神経優位(クレペリンテストと音刺激負荷)もしくは副交感神経優位(眼球マッサージ)な状態の前後に唾液採取を行い、自律神経機能のパラメータとして心電図を計測した。その結果、心拍数、LF/HF比共に前者で増加傾向を、後者で減少傾向を示した。また、SDS-PAGEの結果、眼球マッサージ後に(1)と同部位にバンドが確認され、クレペリン後には認められなかった。 【まとめ】 2つのペプチドが苦味結合に関連することが判明し、味覚異常の診断や苦味のマスキングに有効であることが示唆された。
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