末梢神経損傷によって、自発痛・異病症および痛覚過敏などを起こすことがある。これらの症状は総称して神経因性疼痛と呼ばれ、その分子機構として侵害受容性神経伝達物質の発現変化や一次求心性線維の脊髄ニューロンへの発芽など、神経回路の可塑的な変化が考えられている。 神経栄養因子は、神経細胞の成熟・生存および維持に関与すると考えられている。ラット後根神経節(DRG)において、侵害刺激を伝達する小径無髄一次求心線維の約半分は神経栄養因子の一つである神経成長因子(NGF)に生存を依存し、他の半分はグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)に依存している。NGFは神経因性疼痛の発症・維持に関連があると考えられる。一方GDNFの神経因性疼痛への寄与は現在十分に解明されていない。一次求心性線維の生存に関与するNGFとGDNFは末梢神経損傷後発症する病的な疼痛においては、異なった作用をしている可能性がある。本研究では、両因子の神経因性疼痛における役割を明らかにするためにラットのCCIモデル(慢性絞扼性損傷モデル)を使用し、疼痛回路での定量的発現変化を検討した。 その結果、一次求心性線維の生存に必要なGDNFがCCI後損傷側DRGで減少し、GPNF投与によって疼痛症状が緩和した。この時、損傷DRGにおいてNGF量は不変であった。この結果は、減少したGDNFが神経因性疼痛の発症に関与することを示唆している。神経損傷ラットにおいてNGFとGDNF発現がそれぞれ異なった様式で顕著に変動することが示された。これらの結果は現在十分な治療法がない神経因性疼痛に対し、神経栄養因子関連化合物による治療の可能性を示唆している。今後更にGDNFの効果機序の解明を通じて、新たな薬物の開発が期待される。
|