昨年度の本研究で、ヒト歯髄および歯根膜由来細胞は、その石灰化能に個体差が大きいことが分かった。そこで、安定した研究成果を得るために、不死化した細胞株を用い硬組織形成の検討を行った。 1)歯乳頭、歯髄、歯根膜由来細胞の不死化 インフォームドコンセントのもとに抜去した智歯より、以下の細胞を調製した。すなわち、わずかに歯冠部に石灰化のみられた鐘状器の歯乳頭、歯根の完成した崩出智歯の歯髄、および歯根膜からコラゲナーゼ処理法により細胞を回収した。これらの細胞に、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)をヒトパピローマウイルス16(HPV16)あるいはSV40と共に細胞に導入した。これらの細胞は約30継代以上生存することが確認できた。 2)in vitroにおける細胞増殖、石灰化能の検討 歯乳頭細胞(PA)と歯髄細胞(DP)は紡錘形をしたやや小型の細胞で、高い増殖活性を示した。デキサメタゾン、アスコルビン酸およびグリセロリン酸を添加した培地で培養することにより、アルカリフォスファターゼ活性の上昇を認めた。PAはDPに較べ多くの石灰化結節を形成した。しかし、これらの細胞はBMPに対する応答性を欠いていた。一方、歯根膜細胞は(PL)長い突起をもつやや大型の紡錘形細胞で、倍加時間が4-5日と増殖能は低かった。低いアルカリフォスファターゼ活性を示すが、石灰化能はなかった。RT-PCRによってPA、DPはDSPPを強く発現していることを確認した。 3)in vivo石灰化能の検討 PA、DPをPLLAメッシュ、これにヒドロキシアパタイト薄層コーティングを施したもの(HA-PLLA)あるいは多孔質TCPに播種し、ヌードマウス背部皮下に移植した。6週後に摘出し組織学的検討を行った結果、HA-PLLAにPAを播種したものだけに石灰化像を認めた。この石灰化組織周囲には、骨芽細胞あるいは象牙芽細胞様の細胞を認めなかった。 以上の結果から、これらの細胞は、歯胚再生研究に有用であることが示唆された。
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