研究概要 |
1)新生ラット脳での遺伝子発現に及ぼすビスフェノールAの影響 生後1日齢の雄ラットにビスフェノールA(BPA)100μgを皮下投与したのち2,6時間後に断頭して脳組織を摘出し、視床下部、小脳、大脳皮質、脳幹の4つの部位毎に全RNAを抽出した。抽出したRNAから逆転写によりcDNAを合成、これを鋳型として蛍光ラベルしたcRNAを作製した。このcRNAについて、遺伝子発現プロファイルをAffimetrix社製DNAマイクロアレイ(GeneChip)を用いて解析したところ、いずれの部位においてもBPA投与6時間後のcatechol-O-methyltransferase (COMT) mRNAの発現量が低下していた。BPAが脳内のエストロジェン受容体(ER)を介してCOMT遺伝子発現を抑制するメカニズムを想定して、ERのアゴニストである17β-エストラジオール(E2)、ERαのアゴニストであるpropylpyrazole triol (PPT)、ERのアンタゴニストであるICI182780をBPAと同様の方法で生後1日齢の雄ラットに投与した。その結果、E2ならびにPPTはBPAと同様に脳でのCOMT mRNAの発現を抑制すること、またICI182780はその作用を部分的に阻害することが明らかになった。このことは、BPAによるCOMT mRNA発現の抑制にERαを介する核内メカニズムが関与していることを示している。 2)新生ラット視床下部でのCOMT遺伝子発現 生後1〜16日齢のラットについて、視床下部でのCOMT mRNAの発現分布とそのレベルをin situ hybridization法により調べた。その結果、生後1,2日齢では視交叉上核でCOMT mRNAの強い発現が認められ、silver grainの局在から、COMT mRNAは視交叉上核の神経細胞に強く発現していることが分かった。生後5日より視交叉上核でのCOMT mRNA発現は弱まり、生後16日では生後1日齢に比べその強度は半分以下に低下した。免疫組織染色法によりCOMT蛋白の局在を調べたところ、COMTは視交叉上核の神経細胞のほか、脳室上衣細胞やミクログリアにも強く発現していることが明らかになった。これらの結果より、新生仔の視床下部の神経細胞に発現するCOMTは、神経終末より放出されるカテコールアミンの代謝に直接関与している可能性が示唆された。
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