歯周疾患が虚血性心疾患のリスクファクターとなることが疫学研究により示されるようになってきた。そこで、本研究では、歯周疾患原因細菌がヒト心臓血管系に対しどのような病原性を発揮するかを、成人型歯周疾患原因細菌であるPorphyromonas gingivalisの組織付着に重要な役割を果たす菌体構成成分である線毛を用い、ヒト冠動脈血管内皮細胞に対する作用を検討した。その結果、本年度において以下のような結果を得た。 1)P. gingivalis線毛はヒト冠動脈血管内皮細胞に特異的に付着した。 2)TNF-αで内皮細胞を前処理することにより線毛の付着は増加した。 3)これら線毛の内皮細胞に対する付着は抗Toll-Like-Receptor (TLR)2モノクローナル抗体により約60%抑制された。 4)線毛は冠動脈血管内皮細胞からの炎症性サイトカイン(IL-1)とケモカイン(MCP-1)の産生を誘導した。 以上の結果より、成人型歯周疾患原因細菌であるP. gingivalisは心臓血管局所に定着する可能性が示されたのと同時に、その付着にはTLR-2が強く関与していることが確かめられた。また、虚血性心疾患のイニシャルイベントである血管内皮と単球の付着において、本菌線毛がケモカインを誘導するという今回の知見は、アテローム形成に本菌の菌体構成成分が強く関与する可能性を示唆するものとして興味ある。
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