本研究の目的は、(1)歯根膜細胞およびセメント芽細胞に特異的な遺伝子を同定(クローニング)し(2)それを各細胞のマーカーとして細胞株を樹立し(3)その株化細胞を用いて機能解析を行うことにある。それを達成するためには、まず第一にマーカー遺伝子の同定が必須である。そのために、歯根膜細胞およびセメント芽細胞よりRNAを抽出し、cDNAマイクロアレイ法によって、おのおのの組織に特異的な遺伝子を検索する。 本研究において、我々はレーザーキャプチャー顕微鏡を用いたマイクロダイセクション法により、歯根膜細胞、セメント芽細胞を含む組織切片から、RNAを抽出した。この方法は、顕微鏡観察下において単一の細胞集団だけから選択的に遺伝子を抽出できる画期的なシステムであり、現在考えられる方法の中で最も確実な方法である。 現在までに、パラフィン切片から抽出したRNAは損傷が大きく、今回用いるマイクロアレイによる遺伝子配列の解析には適さないことがわかってきた。そこで、RNAを凍結切片から抽出する方法に変更したが、周知のように硬組織の非脱灰凍結切片の作製が想像以上に困難であった。この問題をクリアするために試行錯誤した結果、特殊なブレードとフィルムを使った方法により、非脱灰凍結切片の作製が可能となり、そして現在もよりよい切片の作製方法を検討中である。これまでに、いくつかの非脱灰凍結切片からは、18Sおよび28Sのピークが明瞭な良質のRNAが採取できることがバイオアナライザーを用いた解析により明らかとなっており、次のステップへ向け大きく前進した。 上記の方法によってクローニングされうる組織特異的な遺伝子は、細胞株を樹立する際に非常に有用なマーカーとなる。また、その遺伝子は、歯根膜組織およびセメント質の再生に影響する因子であることも予想されるため、その機能解析の結果は臨床的にも非常に意義がある。
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