研究概要 |
本研究の目的は、喫煙者が長期にわたって禁煙を行った際の経時的変化を、歯肉微小血管・歯肉溝滲出液の循環機能及び末梢血液中の好中球から発現する免疫系サイトカイン・歯周組織破壊酵素の遺伝子発現量を評価し禁煙がどのように歯周組織や全身に影響を与えるかについて調べることである。 新潟大学歯学部学生で1日10本以上、5年以上の喫煙歴を有し禁煙を希望し十分なインフォームドコンセントが得られた全身疾患、歯周炎のないボランティア16名(男性22-39歳)を実験被験者とし、同条件を満たす非喫煙者11名(男性7名、女性4名、23-27歳)を対照群被験者として選定した。実験群被験者は8週間の禁煙プログラムに参加し、その間呼気中の一酸化炭素(CO)、上顎左側中切歯における歯肉血流(GBF)、歯肉溝滲出液(GCF)量を測定した。測定時期は、禁煙直前(0日)及び禁煙後1,3,5日目、1、2、4、8週目の計8回とした。 その結果、16人の喫煙者中11人が8週間の禁煙を成し遂げた。禁煙1日後のCO濃度はベースラインに比べ有意に低かった。また、ニコチン、コチニン濃度は2回目の測定時に著しく低下した。喫煙者のGBF率はベースラインと比べて禁煙3日後に有意に上昇した。一方、GCF量はベースラインと比較して禁煙5日後に有意に増加し、禁煙後2週までは非喫煙者のGCF量よりも有意に少なかった。更に、喫煙者と非喫煙者の炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-8、TNF-α)や血管内皮増殖因子、MMP-8のmRNA発現の変化を調べた結果、8週間の禁煙により喫煙者においてはいずれのmRNAレベルも有意に低く、禁煙8週後にMMP-8のmRNA発現のみが有意に回復することを報告した。 本研究の結果は、歯肉微小循環が禁煙後早い段階で健常レベルまで回復し、それにより歯肉組織の代謝やリモデリングが活性化され、歯周組織の健康が促進され得ることを示すと共に、喫煙が好中球の遺伝子発現機能をも傷害しており、炎症性サイトカインにおけるその回復には少なくとも8週間以上かかることを示唆された。本研究は禁煙による歯肉微小循環能・好中球遺伝子発現の変化について調べた国際的にも初めての報告であり、以下の論文に掲載され、歯周炎と喫煙の関係に極めて貴重なエビデンスをもたらしたといえる。
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