研究概要 |
歯周病関連細菌のひとつであるPorphyromonas gingivalisの定着に関わるfimAには、5つの遺伝子型があり、重篤な歯周病の病態を示す患者からは特定の遺伝子型のものが高頻度に分離されることが報告されている。このことを、宿主が複数のfimA遺伝子型のP.gingivalisのチャレンジを絶えず受けていて、定着・生存に適した遺伝子型のものがポジティブスクリーニングされていることの現れと仮定すると、それらの供給源が歯周病患者から排出されるP.gingivalisに限られるかどうかについては不明な点が多い。宿主を取り巻く環境の中で、あるいは宿主の歯周組織以外の生体内でP.gingivalisがどのような生態系を築いているかについて検索を進める必要があると考えた。 そこで,本研究は,P.gingivalisを歯周組織以外の生体内細菌叢や環境細菌叢から検出することを目的に、16SrRNA遺伝子ならびにfimA遺伝子の増幅検出を行った。サンプルとして、腸内細菌叢:実験的に歯周組織にP.gingivalisを定着させたマウスの糞便の粉砕物を、環境細菌叢:福岡歯科大学歯学部附属病院保存(むし歯)・歯周病科の治療ユニットの排水溝付近のスメアサンプル、室見川河原の転石に付着したバイオフィルム、牛糞を高濃度に含む土壌を供試した。実験的にP.gingivalisを接種した個体の腸内細菌叢からP.gingivalis 16S rRNA遺伝子が検出された。治療ユニットの排水溝付近のスメアサンプル10検体のうちの1検体、上流に生活排水の流入する地点の河川バイオフィルム細菌叢5サンプルの1つからからP.gingivalis 16S rRNA遺伝子が検出されたが、既知のfimA遺伝子はいずれも検出されなかった。また上流に人家が存在しない地点で採取した河川バイオフィルム細菌叢5サンプルおよび土壌細菌叢10サンプルからは、P.gingivalis 16S rRNA遺伝子、fimA遺伝子のいずれも検出されなかった。これらのことから、P.gingivalisの主たる生活圏がむしろ腸管内である可能性が示唆された。
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